千粒の涙
■第2章 楽しい時間
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 それから、五年の月日が流れ、私は十七歳。高校二年生になった。 祖母の話では、その後の智彦くんは、国立大学受験を二浪。三年目にして、私立の大学に合格。現在は私立大学の二回生。自宅を離れ東京都内で一人暮らしを満喫中ということであった。
 そんな年の冬のこと
 今度は、私の家へ智彦くん一家が年末に泊まりがけで遊びに来ることを祖母から聞かされた。
 妹と兼用部屋のカレンダーを見ると、その日は今日から一ヶ月後であった。
 私は傍のベットに寝ころぶと、目をつぶった。
 そして、五年前の事を思い出そうと努力してみたのだが、完全に記憶として残っていたのは、帰り駅のホームで人目もはばからず泣いたことだけであり、他の記憶は曖昧になりかけていた。
 しかも、智彦くんの存在は、今の私には必要のないぐらい、学習塾に通い、もう一度ピアノを習い始め毎日楽しく、忙しく過ごしていた。
 「ゆきー、晩御飯の準備手伝ってー。」
 階下のキッチンで母の私を呼ぶ声がした。
 そこで、私は目を開けると、机の参考書を手に、
 「えりは、部活で忙しいんだったっけ?。」
 そんな独り言を言いながら階下のキッチンへ移動した。その私の姿に、
 「ゆき、そうやって、参考書片手にここへこなくてもいいのに…。」
 ほら。また、母の小言が始まった。私が勉強して何が悪いんだろう?。以前はいつも、

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